京都辻農園 辻典彦さんが筍栽培に込める想い
京都辻農園の竹やぶの中 竹間は広く2m以上空いている |
今日は京都辻農園の辻さんが筍作りに込める想いを紹介させていただきます。
辻さんの熱い想いが感じられる内容になっていますので、長文ですが、お時間がある時にぜひじっくりお読みください。
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目次
1.「竹の子」と「筍」は全く違う食材
2.灰汁のない筍も下茹でするのはなぜ?
3.筍は大きいほど美味しいが、大きな筍は貴重(京都風栽培法について)
4.大きな筍が出回らなくなったもう一つの理由
5.そして白子京筍『石清水』
1.「竹の子」と「筍」は全く違う食材
全国で一般的に収穫されている「竹の子」は食材的には山菜の仲間です。土の上にその姿を見せている「竹の子」は書いて字のごとく「竹」なのですが小さいので「竹の子」と書きます。
そのため竹の固い繊維を柔らかくするため、蕨(わらび)などの山菜と同様に、アルカリ性の灰汁(あく)を用いて下茹でをします。蕨(わらび)などは昔は灰を入れて炊いたのはこのためです。アルカリの作用は固くなった細胞壁を破壊し、柔らかくすることができます。
しかし、最近灰を入手するのは困難ですよね? 代用品として「柔軟剤」の重曹などを入れて炊くことになります。一方、「竹の子」の下茹での際には灰を入れるではなく「皮ごと茹でる」が一般的です。実はこれが灰の代用品なのです。竹の皮には大量の灰汁が入っています。その灰汁を染み出させて炊くことで柔らかくしているのです。
つまり一般的に「灰汁抜き」と言われているこの「下茹で」作業は、実は「灰汁を抜いているのではなく、灰汁を入れている」「灰汁炊き」なのです。
そのためこのままでは灰汁まみれになっていて、そのアルカリ性が人体のタンパク質である口の中の細胞も破壊していきます。これが灰汁による舌のしびれです。柔らかくするためやむなく使った灰汁を、今度は本当に抜いていきます。そのため長時間水にさらしてアルカリを溶け出させたり、「糠(ぬか)」を入れることでその作用を進めたりします。しかしこのことで食材には糠臭さがこびりついてしまいますし、長時間水にさらす中で、旨味成分も多くが抜けだしてしまい、結果的に「竹の子は食感だけの食材」という扱いの域を出なくなります。
これに比べて頭を土の上に出す前に収穫される「筍」は食材的には全く別物です。筍は竹がぐんぐんと伸びるためのエネルギー(糖分)を根元にどんどんと蓄えていっている段階のスプラウトの状態です。「竹かんむり」の下の「旬」という字は「10日」を表す語。このスプラウトの状態が10日ほどであることからこういう字があてられたといわれています。スプラウトである筍は当然柔らかく、「竹の子」のような灰汁による下茹では必要ありません。だから「絶対に皮ごと茹でてはいけません」そんなことをしては無意味に筍を灰汁まみれにしてしまい、不必要に糠臭さまでまとわせることになるからです。全く別の食材ですから別の処理をします。
2. 筍の下処理
白子筍 |
「まず初めに皮を全部剥いてしまいます」その後、適度な大きさに切ってから下茹でをします。筍の質にもよりますが茹で時間は0~数十分。「糠も入れてはいけません」不必要なのです。茹で時間は竹の子に比べると相当短いです。決して茹で過ぎないように。茹で過ぎると糖分が抜けてしまいます。
一般に竹の子は穂先が美味しいと言われていますが、それは竹の子の場合、根元の糖が既に成長に使われて消費されており、旨味が減っていることに加え、竹が根元の節から順番に成長することから、根元繊維は固くなってしまっているため対称的に「穂先の方がまし」ということになっているのです。
一方「筍は全く逆です」。筍は根元ほど美味しく、穂先に行くほど灰汁を感じます。先述の通り竹は根元の節から順番に成長します。そのためスプラウトの間はただひたすらに成長の時(光を浴びる瞬間)まで、根元に糖を蓄え続けるのです。そのため、筍は大きければ大きいほど根元の糖度が高く美味しくなります。反対に穂先に行くほど身はより多くの皮に包まれているため、穂先にはどうしても灰汁が残り気味です。糖分や旨味成分も穂先にはほとんど存在せず産地では穂先は「ハズレ」と言われているのはこのためです。筍は皮さえ無ければ灰汁が無いので、一部の料理で「苦みえぐみも味のうち」というものを除いては、できるだけ綺麗に皮を取り除くことが美味しく食べるポイントです。
3.灰汁(アク)のない筍も下茹でするのはなぜ?
筍は柔らかく灰汁も無いなら、灰汁抜き作業はいらないのでは?という素朴な疑問がわいてきます。どうして筍も下茹でしないといけないの?
「筍の下茹では灰汁(アク)抜きではありません」「保存のためのもの」なのです。
皆さんの前に今、筍があるということは筍はもう光を浴びていますよね?筍は光を浴びるとその瞬間から成長の酵素にスイッチが入り、刻一刻と「竹の子」に変化していくのです。この変化を止める方法は成長の酵素を働かなくするしかありません。そのために一刻も早く火入れをするのです。筍はそのまま置いておかずに早く処理をしましょうと言われるのはこのため。
ただ、良質の筍であれば深部まで70℃ほどの温度を数分入れてやれば良いので、下茹で時間は短時間です。あらかじめ薄切りにすればしゃぶしゃぶも可能ですし、(釜上げ風に)さっと湯通ししただけの「刺身」も甘み旨味が多く残り絶品です。当日に使い切るなら当家が出荷する良品は下茹ですら不要で、極上品は本当に生のままでピーラーで削いでサラダにもできます。
4.筍は大きいほど美味しいが、大きな筍は貴重(京都風栽培法について)
こんなに大きくても全て土に埋まっている |
ここまでの説明で、「竹の子ではなく筍であるなら大きければ大きいほど美味しい」という理由については御理解頂けたかと思いますが、ではどうしてみんな大きな筍を作らないのでしょうか?
まず筍を産み出す竹の地下茎は地表付近の浅い地面を這うように伸びます。なので自然にできる筍はせいぜい数センチの大きさにしかなりません。でも地表に出るまではひたすら糖をためて甘くなるので大きい方が美味しい。ならば何とか大きな筍を作りたい。それが京都の筍栽培の特殊作業なのです。自然には存在しない大きな筍を育てるために何十年もかけて地下茎の上に地層を作っていくのです。
近年京都風栽培法を研究し他県でもこれに似た取り組みをすることで、比較的良質な筍を産出する産地も出てきましたが人間は得てして短時間で結果を出したがり、中には1年に10cmずつも土を盛るという地域も出てきました。しかしあまり感心はしません。なぜなら、ただ土を大きくかぶせてしまっては土がすぐに固く締まり、数年後には筍も固いものしか出てこなくなってしまうからです。
「職人は手間をかけるのが仕事」
「かけた分の手間代を頂くのが商品の価格」
「職人は決して手間を省いてはいけない」
このような観点から、決して欲張らずに毎年少しずつ年輪を重ねるように地層を作っていきます。それが先人たちの教えなのです。長い長い年月の中、中には欲張って失敗をする者もいたでしょう。それらの経験を踏襲し、今現在の京都風筍栽培(軟化栽培とも言われます)が確立されました。
ただ、これだけでは1本3㎏以上にもなる筍を栽培することは困難です。手入れをしている農場の中では、どこの農家でも年間数本は、斜面などに「斜めに生えた筍が偶発的に大きな筍として産出される」ことはあります。しかし、安定的にそれらを栽培し続けるということは、ほぼ実施できていません。
それは1本3㎏以上にもなる筍を安定的に算出するだけの深い地下茎層がたいていの農場には残っていないためです。
その理由は地下に縦横無尽に張り巡らされた地下茎は筍を掘る際に邪魔になるため多くの農家が筍掘りの最中に地下茎を次々に寸断していくためです。寸断された地下茎はその先の部分が当然死んでしまいます。結果的に深い地下茎はどんどん消されて行ってしまうのです。
大きな筍を生む 作土層の厚み 膝の位置の地下茎に注目 |
京都辻農園では筍を掘る際に、どんなに時間がかかっても、何人がかりで掘ってでもどんなに大きな穴を掘ってでも、ほぼ地下茎を切らずに作業をします。そのため、最大で1mにもなる筍さえ産出されます。
それでも昔は何件もの農家が大きな筍も作っていたのですが、今現在、1本3㎏以上の筍をレギュラーで商品化しているのは「京都でも当家1軒になってしまいました」
百貨店バイヤーさんの中には、「京都に1軒 は 世界に1軒」ですね、と言って下さる方もおられます。当家の極上特大京筍が「幻」と言われる理由がここにあるのです。一度味わった方はもう後戻りできない方も多いこの商品、手間暇そして希少性の問題から、時に1本20万円にもなる筍が毎年売れている。この商品にしかない魅力がそうさせるのでしょう。
5.大きな筍が出回らなくなったもう一つの理由
特大白子筍 50cm以上 3㎏以上 |
大きな筍は、当家以外からも偶発的に少しは産出されていることは、先にお伝えした通りです。大間のマグロなら1本上がっただけでそれが偶発的であれすぐに商品になるのに、なぜこの筍は出回らないのでしょう?
答えは流通の変化の問題です。
農家が野菜を市場に出荷してそれを買うのは誰でしょう?昔は八百屋のおじさんが買い付けて、店頭でお客さんと向き合いながら「この筍は竹の子じゃないから、ちゃんと皮を剥いて茹でるんだよ。」「この大きな筍は最高級の筍で生でも食べられるんだよ。」などと説明をしながらお客様に販売をして下さいました。
いまや買い付ける方のほどんどはスーパーのバイヤーさんです。スーパーではお客様が商品を選んでお買い上げに・・・(今、筍のここまでの話ですら初めて聞いたという方がほとんどではないでしょうか?ほとんどのお客様も御存じありません)スーパーでお買い物をされている方が、1本3㎏で数万円~数十万円する筍をかごに入れて下さいますでしょうか?あり得ませんよね?スーパーのバイヤーさんはお店で売れない商品を買い付けますか?
結果的に農家が仮にこの最高級品を市場に出したところで値はつかず最も下の商品として扱われてしまう。そんな状況でこの商品を市場に出しますか?ややもすると大きな筍を農場で発見した際に最近の農家はほとんどの方が厄介者とすら扱うようになっていると聞きます。
当然美味しいのは知っている。でも掘るのは至難の業、時間がかかる、お金にならない。忙しい時期に構ってられない・・・etc運よく掘り出された筍も自家消費か農家からの贈り物になるのがやっとよほど決まった料理屋さんとのお付き合いのある方以外ではほぼ商品化されることはありませんし、ましてや一般市場には出なくなりました。悲しい現実です。
せっかくの栽培法が確立されて、それを守ってきた多くの農家がいるのに、今やスーパーで売りやすい規格の小さな商品を好んで算出するためにわざと地下茎を寸断して回るものすら少なくない。「嘆かわしい」「文化の衰退に他ならない」
当家は幸いにして数年前までこの大きな筍を年間数十件に使い物にして下さる顧客がおられ、栽培を続けてまいりました。逆に今までは、お陰様でわざわざこの商品を世に知らしめる活動をせずとも済んできたわけです。が、数年前その方がお亡くなりになられ、こうして営業活動を始めたという次第です。
この美味しい筍を幻にしてしまわない方法は世に知らしめること。皆様に知って頂き御使い頂ければ、また栽培を再開するものも増えてくると感じております。そんなこんなで、ミシュラン3つ星等をはじめとする多くの料理人様にお使い頂いているのです。
6.そして白子京筍『石清水』
こんな京都風筍栽培の中でさらに手間をかけ、京都辻農園では他の農家が行わない「筍により良い土づくり」や「水撒き」など数々の工夫を実施し、ただ大きいだけではない、高品質、良食味の筍栽培を実施してきました。
京都では塚原、物集女から長岡にかけた西山地区(乙訓)が最も優良な筍産地として知られています。良質な理由は土の質にあります。
京都辻農園の農場のある石清水八幡宮近辺(男山山頂)は、この西山地区と同じ地層にあります。「石清水」の名の由来は名水が湧き出るためで、水が山の山頂に湧き出すのです。この神秘的な場所にお社(石清水社)を立て、そのすぐ横に宇佐八幡宮より八幡宮の御神体を全て勧請することになったと言われています。
山頂なのに山全体が豊かな水の恵みを受けられるのはなぜなのか?理由は、川の対岸「サントリー山崎工場」で有名な名水地「山崎」に降った雨が同じ地層を通じて、淀川の下をくぐり男山に導かれるためです。山崎の山の方が男山より高いのでこのような神秘的な現象が起きます。
京都の最優良産地と同じ白粘土層に、豊かな水の恵みの恩恵を受けて、石清水八幡宮近辺は優良な筍産地として良質な京筍を産出しています。こうして生まれた京筍の中でも、特に上質で、皮目も身も白く生まれ、甘みも強い白子筍のみを「石清水」ブランドとして出荷しています。まぎれもなく京都を代表する逸品。伝統工芸の職人のように手間暇を惜しまず作った最高級品の筍です。
今期も、収穫開始間近、京都辻農園、白子京筍「石清水」を是非お試し下さい。
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